目標

教育方針

現地校に通学する児童生徒が、再び日本国内の学校に編入した際にスムーズに適応できるよう、基幹教科の基礎的基本的な知識、技能及び日本の学校文化を、日本語によって学習すること。

教育目標

幼稚部

日本語を使って楽しく学び、小学1年生に入学できる国語力と集中力を身に付ける。

小学部

義務教育レベル相当の国語力を身に付ける。

中学部

義務教育レベル相当の国語力を身に付ける。



「多様なニーズ」にどう応えるか

海外子女教育指導員(欧州統括)  冨澤敏彦

補習授業校の設置目的は、以下です

(対象)現地校に通学する児童生徒が、
(目標)再び日本国内の学校に編入した際にスムーズに適応できるよう、
(内容)基幹教科の基礎的基本的な知識、技能及び日本の学校文化を、
(方法)日本語によって学習すること。

し かし、補習授業校の子供達は、生育の背景・現在の状況・今後の方針等が極めて多様なだけに、 補習授業校に寄せる期待も多様になります。これが「ニーズの多様化」と呼ばれる現象、あるいは問題です。 私も、このことに関連するご質問をしばしばお受けしています。設置者(理事会・運営委員会)からのご質問は、教育方針、及び、児童生徒募集に連なる自校の 性格付けをどうしたらよいかというものです。教師(派遣教員・講師)からのご質問は、主として何をどこまで指導したらよいかという目標設定に関わるもので す。

これについての私の考えは、以下のようものです。

まず、「多様なニーズ」の中身を「国語」に焦点を当てて整理してみると、おおよそ次の3群5段階になろうかと思います。

A 「国語力」の強化・伸長を求める。

a 受験に即応し得る国語力を求める。 b 国内校に編入して適応し得る国語力を求める。

B 「日本語力」の伸長を求める。

a 「国語」学習をし得る日本語力を求める。 b 日本語力の保持を求める。

C 「日本語・日本文化」との接触を求める。

「ニー ズの多様化」というのは、Aに応えることを目的に設置された補習授業校に、長期在留・永住の児童生徒が増加し、B・Cを望む声が高まった結果生じたもので す。これへの対応策として多く聞かれるのは、Bに焦点を当てるよう目的・内容を転換するというものですが、これには以下の問題点があります。

一つ目は、政 府が支援をしている目的は「国内に準じた『公教育』の実践」だということです。B・Cに焦点を当てることは、Aを焦点から外すことにほかならず、それでは 国の予算の使い方として適正でないということになります。適正かどうかの判断基準は、国民の利益に資するかどうかということでしょう。

二つ目は教育効果・教育効率に関してです。
補習授業校の子供たちには、国内用の教科書が給付されています。教科書は「学習指導要領」の内容を具現化するための教材集ですから、国内用教科書を用いる ことは、「学習指導要領」の内容の習得を目標とすることであり、それはAに応えることを意味します。つまり、設置目的を達成する方法論の裏付け」があると いうことです。それに対して、B・Cに焦点を当てた場合は、どこに目標を置くのか、何を教材とし、どういう方法で指導するのかということから検討しなけれ ばなりません。現時点では、「補習授業校のための学習指導要領」がなく、「補習授業校の教科書」もありません。それを指向し、小1から中3までの指導階梯 を作ることは容易ではありません。だいいち、対象から外されたAの子供達はどうなるのでしょう。それに加えて、B・Cに焦点を当てることは到達目標を下げ ることにほかならず、目標と達成度との一般的な関係からして、B・Cの子供たちにとっても十分な収穫をもたらさないことになります。

よって、私の主張は、あくまでもAに焦点を当て、B・Cをも組み込む学習指導を行うべしというものです。課題・発問・指示・評価に、基礎-発展-探求という段差を設けることによって、3群5段階それぞれのニーズに応えることは可能です。比喩で説明しましょう。

補 習授業校を競泳用プールとします。そこは、子供たちが、大会に出場できる力(帰国して適応できる力)をつけることを目標に、体系的な内容を、定められた方 法でトレーニングをするところです。誤解しないでいただきたいのは、出場できるくらいの力(帰国して適応できるくらいの力)を目標にするということであっ て、出場する(帰国する)子供だけを対象とするというのではないということです。その地域に子供が水に浸かれるところ(日本語学習機関)がほかにないとい うことで、ただ水遊びをしたいだけという子供が入会を希望することもあります。その子にも入会を許可します。ただし、入会したからにはプールの規定に従っ て泳がなければなりません。1メートルでも3メートルでもいいから頑張りなさい。その代わり、初歩(基本)から教えます。それは、頑張ればちゃんとした泳 法(国語学力)も身に付けることができ、望むなら10メートル泳ぐことも、大会に出場する力をつけることも可能です。

B・ Cを対象としたらAははずれてしまいますが、Aを対象とする方式では、B・Cを含めた一斉指導が可能です。ただし、Cに属していて、日本語レディネスが極 端に乏しい子供は分離しなければなりません。それは、その子にとって最も適切な時間の過ごし方を与える教育的な措置なのです。「日本語科」とか「基礎クラ ス」という名称で実施されているケースはこれに当たります。そこで行われるのは、無論「日本語」学習であり、指導法も外国人に対する日本語指導に準じるこ とになります。それを望まないなら、保護者も本人も、そのための努力しなければなりません。それは、家庭では日本語を使うようにし、補習校で行う「国語」学習の手段である「日本語」のレディネスを備えることです。プールの会員であるためには、パチャパチャと水遊びをしているだけではいけないのです。 それでもなお困難だとしたら、その子の保護者が教室に付き添って支援したらよいでしょう。「国語」指導を託されている教師の時間とエネルギーを特定の子供 の「日本語」学習のために割くべきではありません。これについては、運営委員長や校長が、補習授業校の目的・性格・内容・方法をきちんと説明する必要があ ります。温情的、人道的な配慮が、講師と他の子供たちに負担と迷惑を強いることもあるからです。

私 は、かつて北東イングランド補習授業校とロンドンにおいて実際に教壇に立ち、全学年を対象として示範授業を行いつつ補習授業の指導方法を探ってまいりまし た。3群5段階への一斉指導が可能であるとの主張もその経験に基づくものです。その指導方法については、まだまだ研究しなければなりませんが、基本的には 以上が補習授業校が海外子女教育のための重要な教育機関であり続ける道であると考えています。

 

注)文部科学省国際教育課月報『気球船』平成15(2003)年10月号初出